ヒト特有の脳とこころを
「発達−進化」の道すじから探る
形態的な特徴と同様、目には見えないヒトの脳―こころのはたらきも、進化の産物です。
ヒトを特徴づける脳―こころのはたらき(what)を知るためには、それが、「いつ(when )・どのように(how )・なぜ(why )生まれてきたのか」を理解することが必要です。
明和研究室では、生物としてのヒトの脳とこころを、「発達と進化」の時間の流れから実証的に解き明かそうとしています。
ヒトは、多様な軌跡をたどって発達する
ヒトは胎児のころから持つ身体(脳)を環境(他者、社会、文化)と複雑に相互作用させながら、脳とこころを発達させていきます。それは、生涯を通じて変化し続け、さらに身体と環境の相互作用がもたらす影響は、その後の相互作用のしくみ自体を変えていきます(同一個体内の変化)。
こうした発達の多様性(個人差)がうまれる軌跡・ダイナミクスを、生命そのもの、すなわち開放系(オープンシステム)の概念から解き明かそうとしています。ヒトの発達を「平均」でとらえる発想を超えた、新たな人間科学への挑戦です。
- 研究例
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- 霊⻑類研究から探るヒトらしい子育てと発達
- 子育てにおけるオキシトシンホルモンの役割
- ヒトの社会性の発達とその個人差
脳―こころの発達を、身体の健康から守る
ヒトの脳の発達においては、環境の影響をとくに受けやすいある特別の時期、「感受性期」があることが知られています。そのもっとも重要な時期が乳幼児期です。この時期に受ける環境や経験は、生涯もつことになる脳とこころの柱となる重要なものです。
最近、脳発達の感受性期と同じく、腸にも感受性期にあたる時期があることがわかってきました。幼児期までに、その個人が生涯もつことになる腸内フローラの原型ができあがるのです。腸は「第二の脳」とも呼ばれていますが、脳から腸へ、腸から脳への情報伝達が双方向的に影響を及ぼし合います。身体の健康を乳幼児期から守ることは、生涯にわたる脳とこころの健康を守ることにつながるのです。
- 研究例
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- 腸内細菌叢の発達の感受性期と食生活習慣との関連
- 養育者と子どもの腸内細菌叢と心身のヘルスケア(親の育児ストレス、子どもの情動認知発達、身体的健康など)との関連
- 日常生活場面における神経生理データ、気分、ライフログデータを活かした個別型支援の開発
親も育つ、子どもも育つ―親子「セット」で発達を支援する
ヒトは⺟親だけによる養育形態により命を繋いできた生物ではありません。ひとりの子への養育コストが他の動物に比べて圧倒的に大きいヒトは、「共同養育」という生存戦略により命をつないできたとみられます。
最近、「親性脳」とよばれる、ヒトの養育行動に関連する脳内ネットワークとその生物学的基盤が特定されてきました。親性脳の発達には生物学的性差はみられません。子どもへの接触経験によって発達していくのです。現代社会では、性差を問わず、親となる若い世代が子どもと触れ合う機会は得にくくなっています。
若い世代の養育行動に適応的に機能する脳とこころ(親性)をいかに育むかが重要な社会課題となっています。親も子どもも、社会が育むべき対象なのです。
- 研究例
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- 男性親性脳の発達とその個人差
- ⺟子インタラクション中の脳・生理同時計測
- 親子間コミュニケーションを促進させる製品の開発
Society 5.0時代に生きる次世代人類の脳とこころの発達
今、私たちはサイバー空間とフィジカルの空間を高度に融合させた社会(Society 5.0)のなかで生きています。Society5.0では、利便性の向上、省力化(無駄のなさ)に価値がおかれています。
しかし、これは完成した脳をもつ大人を前提としているにすぎません。哺乳類動物の一種であるヒトは、他個体との「密・接触」を基本とする環境に適応して進化してきた生物です。大人にとっては一見無駄にもみえる環境、社会で様々な経験を積み重ねながら、ヒトの脳とこころ(ヒトらしさ)はゆっくりと育まれていくのです。
今後、どのような未来社会を次世代人類に託していくべきなのでしょうか。答えのない問いですが、それを考えるための羅針盤となる人間科学の知見を発信していきたいと考えています。
- 研究例
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- 親子交流における音楽体験介入のビジョン
- マルチモーダル行動解析システムの開発
- 日常のデジタルデバイス使用やオンラインコミュニケーションが心身に及ぼす影響